将来的に「先祖代々のお墓をどうしよう?」とお悩みの方も少なくないと思います。
先日、ある女性(Aさん)が海洋散骨のご相談で来店されました。詳しく話をお聞きすると
既に【墓じまい】は石材店に依頼済みなんですけど、あとは(納骨されていた)遺骨を【海洋散骨】したいと思っています。
ご家族で話し合って、完全にお墓をやめる決断をしたそうです。
お墓の承継者(お墓の管理者)が誰もいない、いなくなる。少子高齢化・核家族化が進む現代では、先祖代々のお墓をご家族で維持管理するのは難しくなってくると思います。昔の様に「長男がお墓を守る」とは言い切れない時代です。
- 今あるお墓は不便だから、より便利な場所にお墓を購入したい
- お墓はもう必要ないから、永代供養の合祀墓などに変更したい
- お墓をやめて、遺骨を海洋散骨したい
色々な選択肢があります。
ただ、お墓は決して個人だけのものではありませんので、「譲り渡す側(親)・受け継ぐ側(子)」お互いの事や将来の事も含めて、ご家族・親族が納得のできる方法をゆっくりと考えることがおすすめです。
今回は、【墓じまい・改葬】のお話と、最後に【海洋散骨】について簡単にお話したいと思います。
このページでの情報は一般的な内容になります。詳細につきましては、各霊園や市町村にご相談ください。
改葬(かいそう)はお墓・遺骨の引越し
まず最初に、「墓じまい」とは別の言葉になりますが、「改葬(かいそう)」についてご説明します。
改葬:今あるお墓をやめて、【遺骨】を新しい場所(お墓・納骨堂など)に移す
簡単に言えば「お墓の引越し」ですが、改葬は【※遺骨の移動】も含みます。
墓埋法 第2条第3項
墓地、埋葬等に関する法律
「改葬」とは、埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移すことをいう。
※「墳墓」とは、死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設をいう。
改葬と墓じまいは違う?
「改葬と墓じまい」は厳密には違います。でも、世間一般的には同じ意味合いで使われ、「墓じまい」の方が聞き覚えのある人が圧倒的に多いはずです。言葉的にも【墓じまい=墓をしまう(仕舞う・終う)】でイメージしやすいです。
- 改葬
お墓を管理者へ返却して、【遺骨】を新しいお墓へ移す。 - 墓じまい
お墓を管理者へ返却する(更地に戻して霊園管理者へ返す)。
「改葬=墓じまい+【遺骨】遺骨を新しいお墓へ移す」です。改葬の一部が墓じまいと考えると分かりやすいと思います。
冒頭のAさんは、「お墓をやめる(遺骨を取り出す)⇒遺骨を散骨する」です。この場合、遺骨を新しいお墓などに納めないので、改葬ではなく「墓じまい」です。
実際には、厳密な違いは気にする必要はないと思います。いずれにしても、「お墓をやめる=納骨済みの遺骨をどこに納骨するか?(または散骨する等)」の検討が必要になります。
改葬件数は年々増加
厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、改葬件数は約10年間で増加傾向にあります。
- 2009年:約7万2,000件
- 2018年:約11万5,000件
- 2022年:約15万件
承継者がいない(いなくなる)ことを理由に合祀墓(血縁関係のない人の遺骨を一緒に納めるお墓)などへ改葬する場合が多いと思います。
ご家族・親族様にとって、現状より立地や都合が良い場所に新しくお墓・納骨堂を購入して供養を続けることは良いことだと思います。
改葬は役所へ「改葬許可申請書の提出」が必要です
改葬には、役所へ「改葬許可申請書の提出」が必要です。ご家族様と霊園(墓地管理者)だけで自由に改葬はできません。
改葬許可申請書は市町村のホームページまたは窓口で入手可能です。
- 今あるお墓の管理者
- 新しいお墓の管理者
両方の署名捺印をもらい、今あるお墓の所在地を管轄する市町村に改葬許可申請書を提出します。受理されると「改葬許可証」が発行され、改葬が可能になります。詳細は役所へご相談ください。
改葬という言葉を忘れてしまっても、「墓じまいをしたい」「お墓の引越しがしたい」と言えば、きっと職員さんに伝わると思います。
改葬に該当しない場合は、「遺骨引渡証明書」をもらう
もう一度、改葬の定義をご説明すると、
「改葬」とは、埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移すことをいう。
墓地、埋葬等に関する法律
※「墳墓」とは、死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設をいう。
お墓などに納めていた【遺骨】を他のお墓などに移す場合が改葬に該当します。
ただし、冒頭のAさんの様に、墓じまい後に納骨されていた遺骨を別の場所に「移さない」場合は改葬に該当しません。
例えば、取り出した遺骨を
- 海洋散骨する
- 遺骨ダイヤモンドに加工する
- 手元供養(自宅で祀る)
などの場合は、遺骨を新しい場所に「納骨しない」ので改葬に該当しません。そのため、役所での改葬手続きは不要です。
しかし注意点として、遺骨と故人様との関係【この遺骨は◯◯の遺骨である】を明確にしておかないと後々トラブルの原因にもなります。そのため、今あるお墓の管理者に「遺骨引渡証明書」に署名捺印をしてもらう必要があります。
この書類は「すぐには納骨しないけれど、将来的にどこかのお墓に納骨する予定。または海洋散骨する予定」などの際にも必要となります。用紙は改葬許可申請書と同様、市町村の役所で入手できると思いますので、一度役所へお問い合わせください。
お墓は「更地」に戻して、管理者に返却する必要があります
お墓をやめる(改葬・墓じまいをする)場合、【今あるお墓(墓石)は霊園が処分してくれる】と思っている方もいらっしゃいますが、それは違います。
基本的にお墓は霊園から借りている状態です。
お墓の購入:お墓を建てる場所を霊園(管理者)から借りて、使用者がお墓(墓石)を建てている状態。
つまり、お墓を建てた「土地の所有権」は霊園側にあります。
そのため、お墓をやめる(改葬・墓じまいをする)場合は、使用者(お墓の名義人・家族など)が更地に戻して管理者に返却する必要があります。そして、墓石撤去費用は使用者の負担です。賃貸住宅でお引越しをする場合に、お部屋を元の状態に戻すのと同じ感じです。
墓石撤去は、どの石材店でも依頼可能だと思います。また、新しい移転先の霊園に相談すれば石材店を紹介してくれるかもしれません。
改葬(墓じまい)の相談は、新しい移転先の霊園がおすすめ
先ほどご説明したように、お墓の改葬は自由にはできません。役所での手続きが必要ですし、新旧の霊園管理者の署名捺印が必要ですので、想像より大変かもしれません。
まず、改葬(墓じまい)を検討・お困りの場合は、新しい移転先(候補)の霊園へのご相談がおすすめです。
霊園の運営者は、改葬と関連手続きの専門家のはずですし、状況に応じて適切なアドバイスをしてくれると思います。
今あるお墓に「何体分の遺骨が埋葬されているか?」でもお墓選びは変わってきます。
例えば、今あるお墓に3人分の遺骨を埋葬している場合、新しい移転先も3人分の遺骨が受入可能か?の確認が必要です。ある広告では、「夫婦2人分」と人数制限がありましたので、移転先を選ぶ際には注意しましょう。
新しい移転先は、必ず「現地確認」と「総額費用」をチェックしましょう
候補の霊園や納骨堂が見つかった場合は、必ず現地確認がおすすめです。最寄駅や駐車場、周辺環境もチェックをしましょう。時々、霊園完成前に募集開始している場合もありますので、気になる点は必ず質問しましょう。
そして、最も大切なのは費用面です。
今は、承継者(お墓の管理者)がいなくなった場合でも供養してくれる「永代供養サービス付き」のお墓や納骨堂が人気です。しかし、永代供養と言っても詳細内容が異なりますので、追加費用や年間管理費など後になって発生する費用の有無は必ず確認しましょう。
インターネットで検索すれば、たくさんの霊園や納骨堂が見つかります。まずは、ご希望の地域で検索してみましょう。
- ◯◯(地域名) お墓
- ◯◯(地域名) 納骨堂
- ◯◯(地域名) お墓 永代供養
※【地域名】:最初の検索は「大阪市・堺市」など広範囲での検索が良いと思います。
寺院墓地を検討される場合は「利用条件」に注意が必要です
お墓や納骨堂の運営者は、大きく分けて「公営・民営・宗教法人」の3つです。この中で、宗教法人(寺院)の霊園を利用する際には少し注意が必要です。
寺院(お寺)が運営する霊園(寺院墓地)を利用する場合、基本的に「その寺院の檀家(だんか)になる」が条件です。その点を忘れずに、利用条件や費用を必ず確認しましょう。
また、浄土真宗の寺院墓地では浄土真宗の信徒、真言宗の寺院墓地では真言宗の信徒のように、各宗派の信徒の利用が一般的ですが、最近の寺院墓地では「宗教不問(どんな宗教でも利用可)」の場合もあります。
新しい寺院墓地ほど利用条件や制限は緩いですが、特定の寺院と関係を持ちたくない場合は、寺院墓地の利用は避けることがおすすめです。
永代供養サービスの「詳細内容」を確認する
近年、【永代供養付きのお墓・納骨堂】の利用者が増えています。永代供養は、もし将来的に承継者(お墓の管理者)がいなくなった場合でも、その霊園が続く限り供養をしてくれるサービスです。
永代供養付きだと、「これで将来は安心!」と思うかもしれませんが、霊園によって永代供養の内容(費用)が異なるケースも多いので注意が必要です。
実際は「永代供養付き」といっても色々です。
- 永代供養の費用は別途
- 永代供養の期間は◯◯年間
- 永代供養は◯人分まで
私たち葬儀社スタッフも、時々近くの霊園の広告やホームページを拝見しますが把握しきれません。必ず現地で霊園スタッフに直接詳しく説明を聞くことがおすすめです。
改葬について簡単なまとめ
改葬を行うには以下の手続きが必要です。
- 役所での書類手続きが必要
- 新旧のお墓(または納骨堂)からの署名捺印が必要
- お墓は更地に戻して管理者に返す(石材店に依頼)
お困りの場合は、新しい移転先(候補先)の霊園にご相談されるのが良いと思います。状況に応じて適切なアドバイスをいただけると思います。
また、遺骨を他のお墓などに移さない(散骨する等)場合は、改葬に該当しません。
ただし、遺骨と故人様との関係【この遺骨は◯◯の遺骨である】を明確にしておくために、納骨していたお墓(納骨堂)の管理者に「遺骨引渡証明書」を発行してもらいましょう。
海洋散骨について
最後に海洋散骨について簡単にご説明します。
まず注意点として、すべての遺骨を散骨してしまうと、お墓のような供養の対象物がない状態になります。お墓(遺骨がある)が心の拠り所になる方もいらっしゃいますので、その点も十分に考慮しましょう。
- お墓は必要ない
- 宗教的な供養は必要ない
- 故人の希望なのでご家族・親族全員が納得している
という方に、海洋散骨は適しているのかもしれません。いずれにしても、大切なご遺骨に関することですので、ゆっくりご検討されることをおすすめします。
遺骨のパウダー加工や洗浄が必要です
海洋散骨には遺骨の「パウダー加工(細かな粒子状に加工)」が必要です。
また、お墓から取り出した遺骨の状態(土やカビなどの汚れが付着)によっては、「遺骨の洗浄」が必要な場合があります。お葬式・収骨を終えたばかりであれば基本的に問題はありませんが、【墓じまい(遺骨を取り出す) ⇒ 海洋散骨する】場合には、遺骨の洗浄が必要になる可能性が高いです。
海洋散骨の費用
海洋散骨の費用はご希望によって異なります。
- どの海に散骨するか?
- 何人分の遺骨を散骨するか?
- 委託散骨(業者へ任せる)か?プライベート散骨(船を貸切りで散骨)か?
まとめ
今回は「改葬・墓じまい・海洋散骨」についてお話しました。
「墓じまいは今の自分には関係ない」そんな方も当然いらっしゃると思いますが、突然のご不幸で、ご自身や親族の状況が変化する場合もあります。また、年齢を重ねて価値観が変化する事もあります。今は心配がなくても、将来の事は誰にもわかりません。
少なくとも、このページを最後までご覧になった方は、考える(少し気になる)段階にあると思います。
改葬をして、よりご都合が良い場所にお墓(遺骨)を移すのも良いと思いますし、海洋散骨や手元供養も良いと思います。ご自身・ご家族に合った供養の方法をお選びください。
繰り返しになりますが、お墓や遺骨は決して個人だけのものではありません。譲り渡す側(親)・受け継ぐ側(子)の想い、親族の想い、ご自身がどんな立場なのか?によって、考えることは1人1人異なると思います。
ゆっくりと検討されることをおすすめします。